遺伝子組み換え動物等取扱に関する考え方

遺伝子組み換え動物等小委員会
(バイオセーフティ委員会)
平成17年5月27日

はじめに

遺伝子組換え生物は、先端的な生命科学・医学の研究領域において不可欠で大変重要なものとなっている。しかしながら本来は自然界に存在しなかったものであるため、生物の多様性を保持する観点から、実験研究に際してもその使用や保管、運搬の際には適切な制限がなされなければならない。制限を含めた具体的な取扱いについては、昨年施行された法制化内容を十分に考慮する必要がある。

ここでは、クローン生物を含め、法規制に係る遺伝子組み換え生物等のうちマウスやラットなどの実験動物を主な対象とし、それらを用いた適切な取り扱いのための解説を試みた。

本解説は下記に述べる国立大学法人動物実験施設協議会バイオセーフティー委員会で企画された。起案は同委員会内に組織された遺伝子組み換え動物等検討小委員会(委員長 手塚英夫)が行った。同委員会内で検討の結果、ここに小冊子 「遺伝子組換え動物等取扱いに関する考え方」 としてまとめた。

各機関におかれては、研究者及び管理者が本解説の内容をよく理解され、もって各機関における遺伝子組み換え動物等を用いた研究及び管理が円滑に進む一助となるよう期待したい。

なお本解説には、日本実験動物環境研究会機関誌「実験動物と環境」12巻1号14-21頁(2004年4月発行)に掲載された論説「遺伝子組換え実験法制化と組換え動物実験」(手塚英夫)の文章を転載している部分がある。転載を許可していただいた日本実験動物環境研究会(朱宮正剛会長)に感謝すると共に、本解説を引用される場合は、併せて同論説についても触れられるようお願いしたい。

バイオセーフティー委員会 及び 遺伝子組換え動物等検討小委員会(*)

委員長山本 博*(富山医科薬科大学生命科学実験センター・生物資源開発分野)
副委員長宮下信泉*(香川大学総合生命科学実験センター・動物実験部門)
小委員会
委員長
手塚英夫*(山梨大学総合分析実験センター・資源開発分野)
委員浅野雅秀*(金沢大学学際科学実験センター・遺伝子改変動物分野)
有川二郎(北海道大学大学院医学研究科附属動物実験施設)
大沢一貴*(長崎大学先導生命科学研究支援センター・比較動物医学分野)
黒澤 努*(大阪大学医学部附属動物実験施設)
越本知大(宮崎大学フロンティア科学実験総合センター・
実験支援部門生物資源分野生物資源分室)
佐藤 浩(長崎大学先導生命科学研究支援センター・比較動物医学分野)
柴原壽行(鳥取大学生命機能研究支援センター・動物資源開発分野)
鈴木 昇*(三重大学生命科学研究支援センター・動物機能ゲノミクス部門)
速水正憲(京都大学ウイルス研究所附属感染症モデル研究センター)
古谷正人(高知大学医学部附属動物実験施設)
毛利資郎(九州大学大学院医学研究附属動物実験施設)
八神健一(筑波大学生命科学動物資源センター)

目次

1.法制定の背景1
2.法制化に対応するためのあるべき基本的姿勢1
3.指針と法令等との比較2
4.法令の内容2
 1) 法規制対象の当事者 -実験者と所属機関の体制整備-
 2) 法規制対象の「生物」 -遺伝子組換え生物等 (LMO)の考え方-
 3) 法規制対象となる実験
 4) 組換え動物実験の手続
 5) 大臣確認申請書
 6) 組換え動物等の拡散防止措置
 7) 情報提供
 8) 組換え動物等の輸出入手続
 9) その他
参考資料7
(添付資料)
別表1 規程等に関する組換え実験規制の新旧対照表9
別表2 実際の拡散防止措置等に関する組換え実験規制の新旧対照表11
遺伝子組換え実験に当たって執るべき拡散防止措置の区分の早見表13
遺伝子組換え実験に係る拡散防止措置の区分と内容の一覧表15
別表第四 動物使用実験

1.法制定の背景

遺伝子組換え動物についての取扱いが平成16年2月に法制化された。この法は細胞融合技術の産物(クローン生物)も対象としている。両者は「遺伝子組換え生物等」と総称される(英語ではLiving Modified Organism (「LMO」)。これを受けて法の正式名称は「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」1) (略称は「遺伝子組換え生物等規制法」。以下「法」という。)となっている。法に則した遺伝子組換え動物の取扱いに際しては、以下に述べる法制定の背景を知ることが必須である。 

遺伝子組換えは今日、基礎研究から産業応用まで生命科学領域で広く用いられる先端的技術である。その産物としての遺伝子組換え生物は自然界には本来存在していなかった。遺伝子組換え生物が生活環境ひいては自然環境に拡散してくると、ヒトへの健康を含めて予想できない影響を生態系に及ぼすかもしれないという危惧が生ずる。この危惧は我が国だけでなく世界的なものである。この危惧を解消するために締結された国際的な取り決めが「生物の多様性に関する条約」2) であり、特にバイオセーフティに関するものが条約第19条に基づく「カルタヘナ議定書」3) である。

このような国際的な動きに対する我が国の対応を見てみよう。我が国の基本政策のひとつ「バイオテクノロジー戦略大綱」4)(平成14年12月策定、首相官邸HP掲載)には、「いかに優れた技術であっても、安全の確保と国民からの信頼なくしては、産業化・実用化もおぼつかない」との一貫した立場が述べられている。この戦略によって、現代のバイオテクノロジーの成果としての遺伝子組換え生物の安全性、即ちバイオセーフティに対する国民の理解と信頼を得て、「社会的合意」形成がなされるよう強く期待されている。

我が国は、このような持続可能な開発を基本とする立場より、この条約を批准し議定書を締結することとした。議定書締結のために必要なことが「遺伝子組換え生物等規制法」1)制定であり、平成16年2月をもって施行された。これに伴って従来運用されてきた「組換えDNA実験指針」5) は廃止された。法的義務が伴わなかった従来の組換えDNA実験指針とは異なり、 国際的視点を含めての生物多様性への悪影響防止という立場から、 LMO(遺伝子組換え生物等)のバイオセーフティに関する保障を、屋外と実験室内との利用に関して広く法的に担保するものが、今回の法制化のねらいである。

ここに注意して欲しいのは法制定が上記議定書の趣旨に添って行われており、 単に従来の指針に罰則を付けて法制化したのではないということである。法律の名称も「遺伝子組換え生物等の使用等の規制」であり、遺伝子組換え実験そのものを規制していない。法としては、結果としてどのような遺伝子組換え生物が生ずるか、それをどのように管理するかを重要と考えているということである。例えば法制化に際して新たに加わった遺伝子組換え生物譲渡の際の情報提供義務もこの一環である。

2.法制化に対応するためのあるべき基本的姿勢

遺伝子組換え生物等規制法1)は、上記の観点から強制力をもって実験者の管理責任と実験者所属機関の監督責任の両者を問うものである。その中で特に動物実験に関係するものは遺伝子組換え動物である。規制対象は物理的及び生物学的封じ込めとしての拡散防止措置を取っての実験 (作出あるいは使用)、保管及び運搬(以下この3点を「使用等」と総称。)となる。

「使用等」に際して大切なことは、実験者が1)最初にきちんと申請したり届けたりすること、2)次いで申請書に基づいて適正な拡散防止措置を取ること、の2点に尽きる。この点について実験者の法的責任が第一番に問われている。実験者所属機関は実験者を適正に監督する責任が連帯して問われるが、そのことにより実験者が実験を円滑に進行できる保障がなされることになる。

即ち実験者及び管理者の両者にとって、以下の3点の基本的姿勢が重要である。

a)積極的に守る:

今回の法制化は、法と一連の関連規則等(以下「法令等」。)より構成されている。これらの法令等を全て読んで理解するのは相当に時間も労力もかかる。しかし要点は「法令の内容を理解して、きちんと申請し、注意して取り扱う。」ということである。法令で罰則が定められているから守るというのではなく、先に述べたように「自らの行動から、やがては国民の理解と信頼が得られるのだ。」という意識を持って積極的に法令等を守ってゆく姿勢が大切であろう。

b)内容を理解する:

しかしながら法令等の規制は、生物多様性の確保ひいては社会的合意形成のために必要とされる最小限のものでなければならず、基礎研究や産業応用に対する障害となることはできるだけ避けるべきである。その基準は第三者が科学的に見た場合に納得できるかどうかであり、 その判断は機関の委員会あるいは大臣確認の手続きによる。これは申請書にどのように記載項目を設定するか、文章を実際にどのように記載するか、さらにはどのような拡散防止措置を取るかについても適用される。

一般的な基準は文部科学省の省令やホームページに具体的な例が示されており、これを参考に判断することとなる。

c)随時見直す:

各機関のなかには従来の指針5)の時の申請書を、法令の用語だけ変えて使っている場合があるかもしれない。確かに大臣確認申請書を見ると、拡散防止措置の基本は従来の指針の時の考え方と共通していると思われる。しかし様式や申請項目はかなり変化しており、どのように拡散防止措置を取るべきかについて、 より厳密さが要求され、具体的に詳細に根拠を示さなければならないようになっている。

機関承認の申請書についても、従来の指針の時のままではなく、この書式を参考に改訂してゆくことが大切であろう。機関の規程や審査体制等も、改善を図ってゆくことが期待される。

3.指針と法令等との比較

この二つの共通点と相違点を新旧対照表として簡単にまとめた。別表1には規定等に関して、別表2には実際の拡散防止措置等について示した。考え方は概ね共通であるが、用語等が変化している場合があることに注意する。

4.法令の内容

今回の法令は複数の省庁が所管するため、全体像を理解するには、法1)、所管を規定する政令 9)に始まり、一連の省令等10-14)を全て読むことになる。しかしながらこの解説では、研究開発等を目的として大学・研究所等に設置された動物実験施設内等における組換え動物実験を対象としたい。その場合でもなお法1)、規則10)、基本的事項11)、二種省令13)、二種省令に基づく告示14)の該当部分を読んで理解する必要がある(少なくとも11、13、14は必須。11と13は法制化前の組換えDNA実験指針本文、 14は同指針別表に対応)。

1)法規制対象の当事者 -実験者と所属機関の体制整備-

遺伝子組換え動物を使用する実験を行う主体は、大学等の実験実施機関の場合には、実験者である(大臣確認申請書では「実験の管理者」という用語が使われている 二種省令第9条関係)。 実験の管理者は、実際の実験遂行に関する責任者として、自らの研究あるいは業務を実施するとともに、その実験が社会的合意を得られるものでなければならないことに留意すべきであり、この意味から法的に責任を問われる当事者となる。実験の管理者が大学等に所属している場合には所属機関にも監督責任が発生する。

条文との対応としては、 第二種使用(後述3)の項 参照)に関する以下の規定が、法第2節に第12条から15条まで記載されている。法第12条は拡散防止措置が主務監督官庁の省令に定められている場合(規定に従って実験する場合に大臣確認を要しない場合)、 第13条は取るべき拡散防止措置が主務監督官庁の省令に定められておらず、その措置について予め主務大臣の確認を要する場合(個別の実験毎に大臣確認を要する場合)、第14条は第12条、第13条に違反した場合についての措置命令、第15条は事故時の応急措置と報告義務、各規定である。

法第5章には罰則規定がある。第38条には第二種使用についての措置命令に違反した場合に、「1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、又は併科する。第45条には 「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第38条他の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、罰金刑を科する。」となっている。これらの規程に基づいて、実験者本人が、行為者として一番責任が重く、所属機関も監督者としての連帯責任を問われることとなる。罰則の適用に際しては、第一段として違反事例に対する措置命令、第二段として措置命令にも違反した場合の懲罰があり、第二段の違反事例に対する懲罰は重い。

基本的事項第二の2には、組換え生物等の安全な取扱いについて検討する委員会等の設置や取扱い経験者の配置、教育訓練、事故時の連絡体制の整備について定められている。同3には情報提供、同4には記録の保管に関して努めることとの規定がある。これらは基本的事項の規定に従えば努力義務であるが、 例えば情報提供については法第26条に明確な規定があったりすることを考えると法遵守のためには必須のことであろう。

2)法規制対象の「生物」-遺伝子組換え生物等 (LMO)の考え方-

次に、どのようなものが規制の対象となるのか、法令にいう「生物」の定義について述べる。

法第2条には、 「生物とは、一の細胞(細胞群を構成しているものを除く。)又は細胞群であって核酸を移転し又は複製する能力を有するものとして主務省令で定めるもの、ウイルス及びウイロイドをいう。」、また施行規則10)には、「法第2条にいう生物は、次に掲げるもの以外のものとする。一 ヒトの細胞等; 二 分化する能力を有する、又は分化した細胞等(個体及び配偶子を除く。)であって、自然条件において個体に成育しないもの。」との規定がある。

法によれば、独立した生物学的存在として、遺伝情報としての核酸を移転し又は複製する能力を有するものは、全て生物とみなすことになり、その大きさにはよらない。これより、 ウイルス及びウイロイドに始まり、細菌等の微生物から、一般の動植物に至るまで、全て「生物」として法規制の対象となり得る。

しかしながら、 施行規則より、「ヒト」、「培養細胞」は、「生物」より除かれることとなる。ただし、 施行規則の二には個体及び配偶子に関する二重否定が含まれており、それによって、一般の動植物個体及び精子、卵子等の配偶子は、法にいう「生物」に含まれることとなる。即ち、「ヒト」については別の法律による規制がなされ、「培養細胞」については、自然条件では、多様性に影響を及ぼすような生物個体にはならないとの判断によると思われる。この規定より、培養細胞で組換え実験を行っても法規制の対象とはならないが、それを動物に接種したり、動物個体に発生させたりする場合には、法規制の対象になるということである。

実際の組換え動物等(LMO)を扱う実験においては、動物個体を作り、その個体から胚幹細胞を取り出して培養したりを繰り返すということがあり得て、 交互に規制の有無が変化することも考えられる。このような場合には、法の基本に立ち返り、国民に対するバイオセーフティ保障という立場から、 実験者は、自らの実験に関し、実験系の全体像を含め、企画・立案・設計を行い、実験に関する必要事項を、所属機関宛または所属機関を通しての文部科学大臣宛の申請書として申請し、審査を受けて承認された内容に基づいて実験を実施することが求められるであろう。

3)法規制対象となる実験

法規制の対象となる「使用等」は、法第2条に、「食用、飼料用その他の用に供するための使用、栽培その他の育成、加工、保管、運搬及び廃棄並びにこれらに付随する行為をいう。」との規定があり、主に産業等の使用を想定していると思われる。しかしながら、研究機関における組換え動物実験等の試験研究も、全てその他の用に供するための使用、あるいは加工、等に入っているものと考えられる。

法第2条では、

第一種使用: 非閉鎖系 - 野外、屋外圃場を用いる場合
第二種使用: 閉鎖系  - 建物内、あるいは封じ込め設備を用いる場合とされている。

第二種使用では、建物あるいは他の封じ込め設備を取り囲む大気、水、土壌、この3点に対し、「遺伝子組換え生物等」の拡散防止措置が義務づけられている。

第二種使用に際して用いられる「技術」については、組換えDNA実験だけではなく、細胞融合実験によるクローン生物を作ることも含まれる。この際、組換えDNA実験については同一種内の操作、細胞融合については同一科内の操作は除外されている。これは、自然界に起こりうる現象の範囲、セルフクローニング及びナチュラルオカランス等を考慮したためと思われる。

4)組換え動物実験の手続

組換え動物実験等の場合、内容により大臣確認実験と機関実験の2種類があり、種類に応じて必要な手続を踏まなければならない。(1)の項に前述した通り、大臣確認実験は法第13条、機関実験は法第12条に対応する規定がある。機関実験の詳細については、省令第4条に拡散防止措置の規定があり、また宿主の違いにより省令別表第2〜5まで具体的な拡散防止措置法の記載がある(動物使用実験は省令別表第四)。大臣確認実験については、 省令第4条に「遺伝子組換え実験(別表第1に掲げるものを除く。次条において同じ。)」との規定があり、これに基づいて、別表第1(第四条関係)に規定される実験(動物の場合は三の項のイ〜ニ)が該当することとなる。

大臣確認実験の場合には、省令第9条に示されている法第13条2項の規定に従って、別記様式として定められた大臣確認申請書をもって、実験前に、実験に要する拡散防止措置を申請しなければならない。この様式には、申請者として、所属機関の代表者名を記載することとなっており、このために、予め所属機関の組換え実験に関する安全委員会の審議等を経る必要がある。こうして、大臣宛に申請した後は、文部科学省における専門委員会等の審査を経て、確認が所属機関宛に通知される。通知後は、その内容、あるいは省令の規定に従って、拡散防止措置を実施し、また事故時には必要な対応を講じることとなる。この申請手続きの流れについては、文部科学省ホームページ6)に具体的に掲載されている。

機関実験の場合も、 基本的には同じ考え方であり、所属機関としては、大臣確認申請の必要はないが、その実験が本当に機関実験でよいか、拡散防止措置は妥当かの判断の根拠を確保する必要があり、実験の管理者は、やはり、その実験に関する必要事項の申請を所属機関に行う必要が生じるであろう。

機関実験と大臣確認実験の区分に関する判断基準は、 文部科学省ホームページの中の参考資料「遺伝子組換え実験にあたって執るべき拡散防止措置の区分の早見表」7) (3頁:動物作成実験; 4頁:動物接種実験)としてわかりやすく示されているので参考にされたい(添付資料)。

組換え動物実験に関して、所属機関は、実験の管理者によるこれらの一連の過程が的確かつ円滑に実施されるよう、安全委員会及び動物実験施設管理者とよく連携して、実験実施体制及び設備を整備する必要がある。

なお得られた成果を学会発表や学術雑誌への論文投稿という形で社会に還元するということも、実験者の意志による努力事項ではあるが、これも社会的合意形成のためには必須のものである。

5)大臣確認申請書

大臣確認申請書については、 脚注の「備考」に記載された規定をよく読む必要がある。この点については、文部科学省の法関連ホームページ6)に、具体的な記入方法が詳細に掲載されており、是非これを参考にすることを薦める(赤字部分として様式に定められた規定を直ぐ見ることができ、青字部分は記入上の留意事項が掲載されている)。例を挙げると、「申請者」は大学等法人の代表者、「事務連絡先」の「実験の管理者」は、実験を実際に実施している責任者、 「事務連絡先」の「その他の連絡先」は大学等法人の申請事務担当者とするよう記載されている。この申請書に基づいて、法規制がかかってくると思われる。

また「第二種使用等の目的及び概要」、「種類」の項目については、いくつか実験の種類が掲げられているが、その中で、動物作成実験については、新たに組換え動物を作出する実験も、別に作られた組換え動物を譲り受けて使用する実験の両方とも含まれるとのことである。

なお、この申請書については、項目により要求される内容が、その枠の大きさに比較して、相当大きい場合があることに注意する。例えば備考19「その他」の項では、以下のように4点ある。

(1) 第二種使用等の実施予定期間
(2) 遺伝子組換え生物等の安全な取扱いについて検討する委員会等の設置状況及び当該委員会等の委員長の職名及び氏名等
(3) 動物を飼育する施設等の管理者による確認状況(動物使用実験の場合に限る。)
(4) 事故時等、緊急時における対処法(大量培養実験の場合に限る。)

この(2)項からも、前項で述べた委員会設置等の必要性が確認される。

6)組換え動物等の拡散防止措置

大学等の動物実験施設における組換えDNA実験は、法では第二種使用に該当し、 拡散防止措置、即ち封じ込めにより組換え動物等の LMOが実験区域外に逃亡することを意図的に防止し、封じ込める措置が不可欠であり、P1A、P2A、P3A及び特定飼育区画の4種類となる。

具体的な封じ込めの方法としては、 組み換え動物の飼育時等における個体識別や逃亡防止、運搬時における運搬箱の規格や表示義務、 組換え動物等を説明する文書の添付等を含め、適切な施設・設備等を用いた「物理的封じ込め」(P1、P2、P3相当)と組み換え動物の生物学的特性を利用した「生物学的封じ込め」(A相当)の二つの方法の組み合わせによることとなる(P1A、P2A、P3A)。これに加えて事故時の応急措置と報告義務が課題であると思われる。

特定飼育区画については、組換えマウス等の小動物に対応するものではなく、屋外の2重柵内に飼育され、かつ組換えウイルス等を排出するおそれのない組換えブタ、ウシ、ヤギ等を想定したものである。

省令の実際の条文については、文部科学省該当ホームページ8)からPDFファイルとして参照できる。この省令の条文は、その多くが該当条項箇所のみを指定し、該当条文を参照させる法規定特有の記述法によっている。この条文の内容については「遺伝子組換え実験に係る拡散防止措置の区分と内容の一覧表 別表第四 動物使用実験」8) が作成されており、大変理解しやすくなっている。実際の拡散防止措置に必要な設備の設置や実施にあたっては、この一覧表を参照すると実験や管理が容易であろう(添付資料)。

7)情報提供

情報提供に関する法的義務については、法第二十六条及び規則第三十二条、同第三十三条、及び基本的事項の規定を考慮する必要があると思われる。規則第三十二条にはどのような時に情報の提供を必要とするかが定められている。

提供すべき情報の内容については、規則第三十三条の二に、第二種使用等をしている遺伝子組換え生物等を譲渡、提供、又は委託して使用等をさせようとする場合に次の通り定められている。

イ 遺伝子組換え生物等の第二種使用等をしている旨
ロ 遺伝子組換え生物等の宿主又は親生物の名称及び法第二条第二項第一号に規定する技術の利用により得られた核酸又はその複製物の名称(名称がない時又は不明である時は、その旨)
ハ 譲渡者が第十六条第一号、第二号又は第四号に基づく使用等をしている場合にはその旨
ニ 譲渡者等の氏名及び住所(法人にあっては、その名称並びに担当責任者の氏名及び連絡先)

8)組換え動物等の輸出入手続

輸出入に関する法の規制は、議定書の締結国間同士では有効となるが、締結していない国には無効である。ほとんどの国は議定書を締結しており、規制対象となる。 この点については、法第二十八条、規則第三十七条、同第三十八条に該当規定がある。第二種使用を目的とした輸出入物品に対し、 締結国間では、規則に定められた別途様式に従っての内容 (組換え生物等であること、安全を確保する要件、輸出入双方の連絡先等) の表示義務がある。アメリカ合衆国等の非締結国から輸入する場合には、非締結国側には、上記の義務は発生しないが、我が国への輸入に際して、事故による拡散への防止対策が必要となり、やはり内容の表示義務が生ずることとなる。実際にはアメリカ合衆国で日本への輸出入を頻繁に行っている機関(例:ジャクソン研究所)では必要な対応がなされている。

9)その他

遺伝子組換え動物の販売、委託生産、委託飼育等については、その内容により産業上の使用等に該当する場合が考えられる。例えば実験動物としての販売は農林水産省となる。このように農業や工業等、産業の種類によって主務省庁が異なってくる9)。関係する省令は平成十六年財務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、環境省令第一号

17)、通知は例えば平成16年10月農林水産省局長通知18)である。


参考資料

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